えんとつ慕情
――赤いレンガは故郷のランドマーク
白鳥正夫
何年か前のことだった。
北陸・金沢で出会った人。
出身地を尋ねると、「愛媛です」。
「私もそうです」と答えると、「えっ、まさか」の言葉。
「愛媛のどこですか?」と聞くと、「新居浜」との返事。
「私もそうです」と言うと、「えっ、えっ」。
「僕はえんとつ山のふもとで育ったのです」と伝えると、
「私もよ!」と、はじける笑顔。
同じ故郷を持つ者どうしに通う不思議な絆。
初対面であるはずなのに、打ち解け 自然に弾む笑顔と会話。
故郷 新居浜の「えんとつ山」への郷愁は、何ものにも換えがたい。
世の中、私が育ったころに比べ確かに
豊かになったかもしれない。便利になったかもしれない。
でも、物やお金で満たすことのできない不安やいら立ち。
いやなこと、つらいことが多くなっている気がしてならない。
そんな時ふっと、思い出す故郷 新居浜。
故郷を離れて暮らす者にとっては、「えんとつ山」は心の安らぎ。
そして故郷に住む者にとっても、
「えんとつ山」はきっと心のよりどころとなる風景に違いない。
私たちは、足元のささやかな幸せを忘れていないだろうか。
赤いレンガのえんとつは、故郷のランドマーク。
今日から明日へ。今年から来年へ。
親から子へ、そして孫へと。
時代を超え、世代を超え、
雨の日も、風の日も、
120年もの間、そそり立ち
新居浜の地を、住む私たちをじっと見守り続けてくれた
「赤いレンガのえんとつ」は、
故郷 新居浜の、そして私たちの
心のランドマークであり続けることだろう。
これから先も…、
いつまでも… いつまでも…。
「えんとつ慕情~赤いレンガの煙突フォーラムにて
平成21年8月29日」